超ウルトラスーパーAVアイドルプロダクション AV業界の頂点に立った男の真実の物語 37

独立して新しく事務所を立ち上げるにあたり、松岡は、私が書いた、事務所運営マニュアルを覚えるのと同時に、ファッションも業界人らしく、イタリアのブランドのライセンスものや、プラダのビジネスバッグ等を揃えた。
それらのファッションは、かなりハイレベルで趣味がよく、松岡が着ると抜群に似合ったのだ。やはりイタリアのファッションは、さすが男っぷりをあげるなあと感心させられてしまう。こうして形から入る事は、とっても大切な事だし、気分が高揚し自信とヤル気も俄然アップする。
見た目は、バッチリやり手のちょっと儲かってる業界人風に見えるではないか。あとはこれであの私が書いたマニュアルを、完璧にマスター出来れば、なかなかなものになるであろう。まあ、完璧にマスター出来ればの話だが。

ちなみに松岡という名前は無論、私が考えた源氏名であるのだが、私は姓名の画数が悪かったが為に失敗をするという事が無いよう、万全を期す為にも、姓名判断の本で、上下あらゆる角度の画数からでも完璧に良い画数にしなければならない、と考えた。
成功する為には、例えわずか1パーセントでも、マイナス要素を取り除きたかったという事もあったし、内心不安だった私は、姓名判断にさえすがりたかったのでもある。
そこで、人から聞いた、当たると評判の野末陳平の姓名判断の本をじっくりと読んで、完璧な画数を考えた。
だが、下の名前は、最初から固く心に決めていた。それは勿論、私がこの世でただ一人、心から尊敬する、以前付き合っていた、あの売れっ子カメラマンの下の名前に決めていたのである。その名前が実際に抜群に素敵な名前で有る事も然りながら、私が作り上げた松岡の源氏名は絶対に、そのカメラマンの彼の名前で無ければならない、と強く思ったのだ。
何故ならば、そのカメラマンの彼こそが、セクシーグラビアタレント業界を私に、今一度こんなにまで深く悩み考えさせられた源であり、原点であったのだ。

そしてまた彼から学んだ知識、と言えるものかは分からない、私が知識として認識していたものの正体は、おそらく彼の知識の唯の受け売りに過ぎないのであろう、その彼からの、受け売りで得た考えこそが、間違い無く、タレントとしてではなくマネージメントに関しては、全くのど素人であるにも拘わらず、何故か不思議と、あたかもこのセクシーグラビアタレント業界のほぼ全てをマスターしたかの様な自信が、何処からとも無く湧き上がり、この事務所を立ち上げる原動力になっているからだ。

というのは何か、取って付けた様ではあるが、勿論確かにそれは、決して嘘偽りの無い、紛れもない事実ではあるのだが、だがそんな理屈では無く、本音を言ってしまえば、ただ単にとにかく、どうしても、何が何でも、そのカメラマンの名前を、私が作り上げた松岡の源氏名として付けたい。

いや、もはやそれだけでは飽き足らず、松岡に、彼の口調や態度を、何もかもを真似させて、いっそそのカメラマンの彼の、完全コピーを作ってしまいたい、という、他人からすれば驚くべき欲求が、私の中に強く湧き上がって来たのである。何故なら彼こそが、私が最もイメージする、成功したフリーランスのカッコいい業界人の理想像そのもの、だったからである。

そして実の所、私は、人生の中で、彼以上に女をノセて、その気にさせるテクニックに長けた人物を見た事が無かったし、彼は言葉を自在に操る魔術師の様であり、それはまさに神業に思えたのである。
松岡も、せめて彼の10分の1でも、キザなセリフを巧みに操れる様になれれば良いのに。
そのカメラマンの彼を本物のゴールドに例えると、松岡にいくら真似をさせてみた所で、イミテーションを売っている屋台の金メッキにさえ届かないし、説得力の欠片も無いのだ。ほんとにつまらない、退屈な奴だな、とつくづく思わずにはいられない。だが、今更その計画を頓挫させる訳にはいかないのだ。

松岡には、そのカメラマンの彼の態度や口調を完全コピーして、出来うる限り彼のイメージに近づいて、手っ取り早く、格好のつく業界人っぽくなって欲しかったし、無論、彼以上に手本とするモデルとなる様な人物など、いるはずも無かった。
だが、松岡の甲高い声や、ほわんとした話し方は、そのカメラマンの彼の、男っぽく響く、いかにも頭のキレそうな鋭い感じの声や、自信に満ちた説得力のある話し方とはまるで違い、そのあまりの差は、いくら何度も練習してみても全く埋まる事は無く、私は失望し、彼の完全コピーは敢え無く断念し、諦めたのではあるが。


更に言えば、そのカメラマンの彼の名前を口にすると、まるで魔法の呪文を唱えたかの様に、不思議と勇気が湧いて来て、不安が拭い去られ、変わりに何故か私の心に自信がみなぎって来る様な気がしたのだ。そんな不思議な魔力が、彼の名前には込められているに違いない、と固く信じたのだ。

そしていつか、彼に気付いて欲しかったのだ。 《 あれっ、この名前俺の名前以外、他で見た事無いのに。さては、俺の名前を真似したな。》 っと。

何故ならそれには深い深い理由があったのだ。それは・・・


苗字はただ単に、その思い入れのある彼の下の名に合わせて、最高の画数によりその名前を更に絶対的に完璧になるものにしたかったのであった。

それから暫くして松岡は、常にマニュアルのノートを片手に早速新宿の繁華街でスカウトを始めたのだ。

         第一部 完