#6 黒魔術?国魔術?集会【ミサ】in New YorkPart1

【第2部】#6 黒魔術?国魔術?集会【ミサ】in New YorkPart1

こうして私の友人でさえ、メジャーな芸能界で活動しながらプロフィールを全く別の物に変え変装までして同時期にAV女優をとして活動しているくらいなのだから、メジャーな芸能プロダクションがAV業界にこうした方法であっという間にどんどん参入してくる事は明らかであり、大手AVメーカーの社員等はその実ごくまともな一般的な業界人でありまた全うな普通の会社員なのだから、怪しいAVプロダクションなどと取引したい訳が無いのだ。そんな怪しげなプロダクションより、まともでキチンとした芸能プロダクションと取引をし、メジャータレントをAV女優として変装させて供給してもらった方が全然良いに決まっているし、その【 変装 】という方法を使えばいくらでも女の子を供給出来るのだ。それに引き換えメジャーな芸能プロダクションに比べたら何の力も無いAVプロダクションなど、直ぐに淘汰される事は確実なのだ。
その事を松岡に諭し、この頃松岡が勤めていた当時はNo.1の力を持っていたAVプロダクションでさえも、そのままそこに勤めていれば2,3年も経てば、その頃には独立しても既に、メジャーな芸能プロダクションから変装して副業でやっているAV女優でいっぱいになってしまい、そうなるとひと月に出せるレーベルの枠が無くなってしまう事に成るので、結局、事務所経営が成り立たずに終わってしまう、と諭し続け、松岡もそれを理解し結局3か月でそのAVプロダクションを退職したのである。

これでは恐らくメジャーな芸能プロダクションが変装しさせたタレントが副業でやるAV女優だけでメーカーの毎月リリースする枠が埋まってしまうまでせいぜい2,3年しか猶予は無い。グラビア業界の事は私が良く分かっているし、AV業界のやり方も沢山の雑誌等により知識は得たし、松岡がNo.1のAVプロダクションで働いていたのでそのやり方も全て分かってしまったので、後は毎日同じ事の繰り返しで有ったのでもうそこから学ぶ事は無かったのだ。
それよりも自分達でこれから立ち上げる事務所を、ここからの2,3年でどうにか軌道に乗せなければ、この業界で無駄に過ごしただけになってしまい、その先は更に仕事も無くなり、AV業界から去るしか無いのだとここまではっきりと判明してしまった以上、すぐにでも独立して自分達の事務所を立ち上げるより他無かったのだ。
元々は、ただ単に私が松岡をマスコミ業界に入れたかったという思い付きから、業界は楽しい所だと吹聴してしまったが為にそれまでいた一般の会社を辞めさせてしまったので、後戻りも出来ず突き進むしか無かった。そして私はその事に非常に責任を感じたと同時に、早く松岡との事務所を軌道に乗せ、元の業界人や芸能界の友人と行動を共にしていた頃に一刻も早く戻りたかった。とにかく早く戻らないとどんどん業界や芸能界から離れていく様で不安だったのだ。
だが一体何故いつも私が芸能界での大きな仕事が決まると、毎回その企画が流れたり潰れされたりするのか、いくら何でもこれはあまりにも異常だしおかしいと思わざるを得なかったのだ。プロダクションFにしても、大手芸能プロダクションであり、音楽事業協会の会長である田辺エージェンシーの社長にも私の事をキチンと売り出すと約束した上、超売れっ子番組司会者がいるのでいくらでもいつでもそのバーターでMCとして出せるはずでありその確約もしているのに長引いている理由が分からない。
そんな中、雑誌などを研究して分かったのだが、皆どんどん完璧に美容整形をして顔を変えてきているし、AV女優でさえ美容整形しまくっているのだから、私も完璧に整形してからまたグラビアタレントからやり直した方がいいかも知れない。でもその為にはお金がいるし、かといって一応はちゃんとしたテレビ番組のMC【メインキャスター】としてデビューする事が決まっているがそれがただ単に延びているだけという立場である以上、水商売でアルバイトをする事も出来ず、また業界の事を何も分かっていない松岡を放っておく事も出来ず、成行きとはいえこんな状態に陥ったのも新たにやり直す為のチャンスかも知れない。とにかくまずは一刻も早く松岡と作ったAVアイドルプロダクションを軌道に乗せなければならないと思ったのだ。勿論そんな事は十分に認識し何度も自分に言い聞かせてはいたのだが、実際私は焦り、追い詰められていったのだ。

だがそんな時に、【 一つ試してみなければならない有る事】を思い出したのだ。その有る事とは、他人から見れば全く馬鹿げた話だと思われるであろうが、私が15才の時にある人から【 もし、どうしても叶えたい願い事が有れば、ニューヨークに行って悪魔を呼び出すといい。】と、言われていた事だったのだ。
私はいつも仕事が上手く行きかけたり、大役に抜擢されたり、大きな仕事が決まっては何故か急に駄目になるという事の余りにも多い繰り返しの疑問と、また独立させて松岡と立ち上げた事務所を絶対に軌道に乗せなければならなかったので、それをまず素速く終わらせて、とにかく一刻も早く、私自身の本来の芸能界での仕事に専念したかった。
とはいえ本来ならば、悪魔を呼び出す為には、ニューヨークに行かなければならなかったのではあるのであるが、その時何故か不思議と、こんな東京のど真ん中でも呼び出せる気がしたのだ。
それはどうしても自分の力ではどうにもならなかった時、という前提ではあったが、その時には最後の手段としてその方法を試してみる、というよりはこの方法で確実に願い叶えるのだと真剣に私が15才の時から心の隅で固く決めていた事なのだ。

私も【 悪魔を呼び出す 】などと、初めて聞いた当初は【 なんて突拍子もない作り話をするのかしら。私もそうだが、日本では悪魔の実在など信じてる人はまずいないし、そもそも悪魔の話なんて話題に上る事すらまず無いし、映画の中でしか聞いた事が無く、いくら何でも非現実的過ぎる。】と、思った。私も勿論、その話を聞かされる以前は、悪魔を西洋の作り話だとしか思っていなかったのだ。
では何故そんな私が最後の手段には、【 悪魔を呼び出す事は目的達成の為の最後の手段だ】とまで考えるに至ったのかと言えば、勿論そこに行き着くまでの過程が有るのだが、実際私もその話を聞いた当初は全く信じられ無かった程、にわかには信じ難い話であり、これらを唐突に話したところで全く信憑性が無いと思われてしまうであろう為、これらを理解して頂くには、まず私の中学生の頃からの話を少し書かなければならない。

私は都心の皇居に程近い、私立の女子中学校に通っていた。何しろどれくらい皇居に近いのかというと、この学園の女子中学校の校歌の歌い出しは皇居を表す言葉である【 千代田の森の 】から始まる程である。それは勿論、学園の所在地が皇居の前という事も然る事ながら、この校歌は、この学園の土地が元々、徳川家最後の将軍、【徳川慶喜】(一橋慶喜)の一橋徳川家の屋敷跡であり、大政奉還により江戸時代の終焉の後、天皇家が管理していたこの一橋徳川家の土地を、天皇家から、この学園の創立者である首相夫人に寄贈されたものであり、この学園の土地を寄贈された天皇家に敬意を込めて、この中学校の校歌の歌い出しを【千代田の森の】にする経緯になったという由来を有する程である。

その中学生の頃、私は学校の帰りに毎日長時間友人達とカフェなどに寄っていたのだったが、カフェではいつも洋楽の有線がかかっていたので、毎日そうしたカフェで何時間も洋楽を聞いている内に、私はすっかり洋楽に嵌ってしまったのだ。流れて来る洋楽を聞いていると、自然と脳内から何か快楽物質の様な物がタラタラと流れ出て来るのを感じ、単純に気分が良かったし、また非常に楽しくなり気持ちが高揚したのだ。
その頃に洋楽を聞く事によって、それまで生きてきた中の楽しい、嬉しい等とはまるで違う、快楽物質であるドーパミン等の脳内麻薬が分泌される事により、痺れる様な感覚が体の隅々まで行き渡り、甘美な陶酔感に満たされ、強い多幸感がもたらされるという感覚を知り得たのだ。
そうして12,13才頃から、私はそれまで知らなかった脳がとろける様な快楽をもたらす、洋楽という初めて知るこの新しい感覚の魅力の虜になり、すっかり夢中になったのだ。
その頃から日本の歌は全く聞かなくなり、学校での休み時間などは、よく教室で他のクラスからも洋楽好きの友人達と集まり洋楽イントロクイズなどをして遊んでいたのだが、そのクイズで負ければ【 今日の一番ダサい人に決定 】というルールがあり、勿論一緒に洋楽イントロクイズのゲームをした友人達の間だけではあるが、その日は一日中【ダサい人】扱いされてしまうのでつい白熱し、皆の声も大きくなってしまうのだ。
ゲームに参加していない他の生徒達は、そのクイズで負けた友人どころかおそらくそんな洋楽の曲名など一曲も分からないであろうから私達からすれば当然、【ダサい人】どころか全くの論外であり、そうした他の生徒達らを全く気にせずに大声でゲームをしていたので、おそらく他の生徒達はそんなクイズをして遊んでいる私達を苦々しい思いで見ていたであろう。
だが中学生の頃は通っていた中学校の学年で数人しか洋楽に詳しい者が居らず、ほとんどの同級生が日本の男性アイドルが好きな生徒達ばかりだったので、私は洋楽や海外のアーチストをほぼ知らない同級生達とは全く話が合わず、また気が合わないと思っていた。
そして好みのイギリスのアーチストなどが載っている音楽雑誌を持ち寄り、グラビア写真を切り抜いて、好きなメンバーの切り抜きと交換したりし、私は【 こんなに美しい人形の様な男性がいるなんて、余りに美し過ぎて本当にまるで人間では無いみたい! 】と、思ったのだ。
私は洋楽を聞いている時に放出される快楽物質であるドーパミンによって不思議な快楽に満たされる感覚に嵌っているだけで無く、洋楽や海外のアーチストに詳しい事こそが、おしゃれでカッコイイのだと思い込んでいたのだ。

そうして13,4の頃からは、大好きな洋楽が大音量でかかっている渋谷や六本木などのバーやクラブで学校の気の合う友人達と頻繁に朝まで遊んでいた。
そんな中学生の終わり頃、クラブで知り合った医学部の学生と付き合い始めたのであるが、ある日、その彼が六本木に近い青山のお洒落なクラブでパーティを開催したので、私はそのパーティに遊びに出掛けたのだ。
そのパーティでは、彼からずっと面白おかしく話に聞かされていた【 間違い無く絶対に、日本一金使いが荒い大学生 】が、遊びに来ていた。その人は、彼と同じ医科大学医大生だったのだが、彼から聞いた話によると、まだ学生の身でありながら何と月に300万円以上の小遣いを使っているというのだ。まだお金を稼いでいない学生の立場で月に300万円以上も小遣いを使っているだなんて、そんな人は絶対にこの日本のどこを探してもいないだろう、と学校でいつも噂の的になっているのだという。

私が付き合っていた彼はパーティーの主催者で忙しかった事もあり私に、『 僕はパーティーの主催者だから、ビンゴ大会の準備をしたり、ゲストや先輩とかも呼んでるからちょっと接待しなきゃならないからさぁ、そうだ! 日本一金使いが荒い大学生が同じ大学にいるって前に話したでしょう。ほら、あそこのVIP席にいるあの人がそうだよ、僕が呼んでたんだけどね。ちょっとVIP席に行って話してれば、あの人ホント面白いから。』と言ったので、私が『 あーっ、あの人かあ。ふーん、確かに何か面白そうだし。そうね、少し話でも聞いてみようかな。』と言うと、『 じゃあ、僕は忙しいからちょっとそこにいてね。』と言って、彼がその人物がいるVIP席に私を連れて行って紹介してくれたのだ。

その【 おそらく間違い無く日本一金使いの荒い大学生 】は、名前を中山さんといった。中山さんはそこのクラブの常連らしく、そのクラブの店長らしき人とVIPルームで親しげに話していたのだ。
そして私に向かってにこやかに、『僕はこのクラブにはしょっちゅう遊びに来てるので、もし良ければここにいつでも遊びに来て下さいよ。』と言って連絡先を教えてくれたのだ。私は【 凄くカッコいいクラブだなあ。】とすっかりその店を気に入ってしまったので、私はその後中山さんと連絡を取り、その六本木に近い青山のクラブのVIPルームで待ち合わせをしたのだ。

中山さんは15才の私には、とても学生とは思えず、むしろ金持ちの社長の様に見えたのだが、実際話してみると、とっても気さくな人物で、常にニコニコと笑顔を絶やさず、ずっと年下である私に対しても丁寧語で話す物腰の柔らかい人だったのだ。
だがよく話を聞くと、自慢話やダサい学生を馬鹿にした話題が多く、かなり傲慢な事ばかり話していたのではあったのだが、中山さんの話し方が柔らかいのとユーモアのセンスがあり、余りに面白おかしく話すので、全く嫌味が無く、その自慢話さえもとっても楽しく、私も思わず同調してしまったのだ。それにそんなに金持ち自慢な話ばかりする人物にも実際初めて会ったので、凄く面白いと思ったのだ。
だが、よくよく思い返すと、実際は私の方から先に『 学校の子達がダサい子ばっかりで気が合う人が少なくてすっごく嫌なんですよ。もう最悪、あの学校。』と愚痴を言い始めたんだっけ。
そうしたら中山さんも、『 僕も全く同感ですよ。医学部なんて本当にもの凄くダサい奴らしかいませんから。あれでは全く気なんか合うわけ無いですよ。僕はそれが嫌でニューヨークにまで留学してたくらいですし。一応これでも僕は帰国子女ですからね。だけどアメリカに留学する奴らで地方のド田舎の学校に留学する奴って本当に多いですよね。あれは全く不思議ですね。どこの国に行ったって地方の田舎では外国人には偏見があるだろうし、だいいち考え方が保守的じゃないですか。そんなところにどうしてわざわざ留学するのかなあと?それにそんな田舎じゃ夜なんかクラブやバーもろくに無いでしょうから何も楽しく無いと思うんですけどね。僕は勿論、アメリカで楽しみたいからわざわざニューヨークのマンハッタンに留学している訳ですけどね。まあ田舎の方が留学費用が安いからなんですかね。よく分かりませんけど。僕だったらアメリカの田舎なんかに留学してたらノイローゼになっちゃうかも知れませんね、いやあ、本当に。とにかく、もし留学するならやはりニューヨークとかの都会にした方がいいですよ。と、まあそんなくらいですからこっちの同じ医学部のあんなダサい奴らなんかとは、別に友達になりたいだなんて全く思いませんけどね。
だから同じ学校のそんな奴らは無理して相手にしなくていいですよ。僕達は僕達でやっていけばいいだけの話ですしね。僕は同じ大学の奴らなんかと仲良くなれなくても、ちっとも惨めな気持ちになったりしませんから。』などと私の話に同調してそう言いだしたのが切っ掛けだった事を思い出した。

そのクラブは、クラブといっても色々なタイプがあるが、ここのクラブはフロアの中心に大きなダンスフロアがあるディスコタイプのクラブである。
そしてこのクラブはロケーションも内装もかかっている曲も全てお洒落でカッコ良く、またレストランとしても大変素晴らしく、メニューも豊富で味も高級ホテルのレストランの様にとっても洗練されていて美味しかった。

中山さんは、『 遠慮しないで何でも好きなものをオーダーして下さいよ。メニューにあるもの全部オーダーしちゃっても構いませんから。』と笑いながら言ってくれるのだ。
私達のVIPルームのテーブルには常にその店の店長が同席していたのだったが、その店長はいつも口癖の様に、
『 そうですよ。姫、何でもバンバンオーダーして店の売り上げを上げて下さいよ。私だってその為にここでこうしてご一緒しているんですから。中山さんは大金持ちなんですから、全然遠慮しなくていいんですよ。それにうちのメニューにあるものはどれも全部美味しいですからね。』と言って大笑いするのだった。私はそんな事を言われたのは初めてだったので驚いた。
その店長は私が何か一つメニューを注文する度に『 それ3つ?』などと言い、『えー、一つでいいの?本当は3つくらい食べれるでしょう?』などと言って私達を笑わせるのだ。

因みに私は【ビーフストロガノフ・バターライス添え】を、中山さんは【シャリアピンステーキ】を、特にお気に入りで毎回必ず真っ先にオーダーしていたのだ。
だが中山さんは、いつも何故かその大好きなはずのシャリアピンステーキに一向に手を伸ばさなかったのだ。ここのシャリアピンステーキは、牛肉の表面を少し炙っただけのほとんど生(レア)状態で真っ赤で血が滴りそうなステーキであった。それにソースポットに入ったみじん切りにした玉ねぎのソースが添えられていた。私は店で注文した料理を食べずにそのまま置いておく人などそれまで一度も会った事が無かったので、それが酷く奇妙に思えたのだ。それにせっかくのステーキが冷めて干からびてしまうではないかと思った。そこで私が中山さんに、『 どうして食べないんですか?せっかくですから早く食べた方がいいですよ。』と言うと中山さんは、『 僕の事は気にしないで下さい。僕はお酒を飲んでいる時はいつもほとんど何も食べないんですよ。ですからどうぞ食べちゃって構いませんから。』と言うので私は『 そうですか。でも少しは中山さんにも食べて貰わないと。だって中山さんは、ここのシャリアピンステーキは大好きなんですよね。』と言うと中山さんは、『 まあそんなに言われるなら、これ以上気にして頂いても悪いですから、では後で一切れ頂きますから、残りは遠慮せずにどうぞ食べてしまって下さい。僕はこういうレアのステーキが好きで、シェフにわがままを言って特別にお願いして、ほとんどレアで出して貰ってるんですよ。見た目はちょっと赤くて気持ち悪いかも知れませんが、表面は炙ってあるから大丈夫ですよ。ここの料理はどれも美味しいですけど、せっかくシェフにわざわざ作って貰ってるって事も有りますし、とりわけこのシャリアピンステーキは僕が一番この店で美味しいと思うので、これだけは是非食べてみて下さいよ。僕は嘘はつきませんから。一口食べてみたらあっ本当だ!って分かりますから。』と言うのでそれまで私はレアのステーキなど食べた事が無かったし、元来偏食の私は、【 なんか赤くて血が滴ってそうで気持ちが悪いな。】と思ったのだが、あまりにも勧めるので食べないと悪いと思い、シャリアピンソースをかけて仕方無く一口食べてみると、意外とさっぱりとして美味しかった。とはいえ私にとっては、私がいつも必ず真っ先に注文する、上から生クリームがたっぷりかかった【ビーフストロガノフ・バターライス添え】の方が断然美味しかったのだが。
だがこの中山さんとのやり取りは、毎度必ず行われるのだ。私は【 最後に一切れ食べるだけなのであれば、わざわざシャリアピンステーキを注文しなければいいのに。】といつも思ったのだ。

そして店長は、いつの間にか私の事を【 姫 】などと呼び、食後に10種類くらいの美しいケーキを載せた銀のワゴンをウエイターに運ばせ、『 うちは私の方針でデザートにも力を入れててケーキの種類もこんなに豊富なんですよ。どう?とっても美味しそうでしょう。少しずつでも切り分けるので全種類のケーキ頼んじゃいましょうよ。ねっ、そうしましょう!本日のアイスクリームとソルベもどう?うちのは本格的でシェフがちゃんと作ってるのよ、これも自慢なの。こっちも3つくらい食べれちゃうでしょう?ねえ、姫。』などと言われ、【 うーん、ケーキは勿論大好きだけど自家製のバニラビーンズの黒い粒がこれでもかってくらい入っているバニラアイスクリームや、ミルクチョコレートと違って思いっきりビターで濃厚なチョコレートアイスクリームも美味しいけど、やっぱりシャンパンソルベが一番好きかな。あと色鮮やかなルビー色でねっとりとしたカシスソルベも大好きだし。コース料理の途中で出される【グラニテ】ならサクサクして軽い食感のさっぱりとしたのが良いけど、食後にはやっぱりこうしたねっとりとしたソルベじゃないとなんか物足りない気がするなあ。】などと迷うまでも無く、私はスイーツは大好きで断る理由など無いし、勿論女子の御多分に漏れず【 甘い物は別腹 】なのだ。それに中山さんも、『 もう全部頼んじゃったら。だけど女の子って、本当にケーキが好きだよねえ!』などと笑いながら言うので、『 うわぁ!すっごくキレイなケーキ! うーん、確かにどれも美味しそうで選ぶの難しいかも。じゃあ少しずつ全種類切り分けて頂こうかしら。』といった調子で、デザートはいつも全種類注文していたのだ。
私はそれまで中山さんの様な気前が良い人に会った事も無ければ、またその人が学生だという事にも驚かされると同時に、ご馳走になる相手に遠慮をするのでは無く、店の人に気を使って多めにメニューをオーダーするなどという事や、豪華なフルーツ盛りやシャンパンなどは、例え要らなくてもオーダーし、テーブル上で飾って置くものなのだという事なども、15才のこの時に初めて知ったのだ。
またその店長は大変口が達者な人で、中山さんの面白い話に合いの手を入れて突っ込み、更に話を盛り上げるのがプロ級に上手かったのだ。中山さんは、『 僕はここの店長と話すのが余りにも楽しい、という理由だけでこのクラブに来ているんですよ。まあ勿論、内装や曲の好みも良いし料理も美味しいですし、でもそれだけでは無く僕が連れて来た友人や女の子にもこうして凄く気遣いをして貰ってるから、僕が気が回らなくても恥を欠かなくて済みますからね。せっかく良い店だと思って友人を連れて来たのに、【 嫌な店に連れて来られた】なんて怒られたり、気分を害されたら何の為に連れて来たのか分からなくなっちゃいますしね。こっちはただ楽しんで貰おうと思っているだけなのに。その点、この店ではそうした心配もせずにこうして安心して僕も飲んでられますから。』と言っていたのだが、確かに私でさえその店長との会話のやり取りは、芸人並みだと思える程面白くて仕方が無いくらいであったし、この店長はそれに加えて本当に客あしらいが上手く、私は【 ただの面白い人って訳では無く、これって気遣いだったのか、気付かなかった。】と、なるほどと感心した。

そしてそれだけでは無く、店長が私達の席に一緒に付いているおかげで、私は中山さんの話に店長がツッコミを入れる面白い会話のやり取りを横目で見つつ頷きながら、中山さんが酒ばかり飲みほとんどフードを口にしないのとは対象的に、私はその頃やたらと食欲が旺盛で有り、そのクラブのフードメニューを片っ端からオーダーし食べてばかりいたので、あまり私のそうした様子も見られたく無かったし、【本当によく食べるなあ。】等と、二人っきりならば中山さんから内心呆れられるのであろうが、そうした視線を全く気にせずに心置きなく美味しいフードを食べる事が出来、また店内を徘徊したり羽を伸ばせる為、何かと好都合だったのだ。

ある時、その店長が、『 素朴な疑問ですけどね、いったい中山さんはいくらくらい小遣いを貰ってるんですか?』と中山さんに尋ねたのだ。
すると中山さんは『それがね、たったの300万円なんですよ。まあこんな額では勿論全然足りませんから、もっと使っちゃってます、はい。でも当然ですよね。僕にはそんな額ではとても生活出来ませんからね。僕にこの東京で、月にたったの300万円ぽっちで暮らせだなんて、いったいどうやって生活していけばいいのか分かりませんよ。それはいくら何でも酷と言うものですよね。』等と答えたのだ。
それを聞いた店長は、
『ええ!?そんなに貰ってるんですか!?
それだと300万円だって、単純に計算しても3年間で1億円以上の小遣いになりますよ。ええ!? そんなに使ってるんですか!?それでも全然生活出来ないって、いったいどうなってるの!?』
と言って驚いてた挙げ句、物凄い大口を開けて馬鹿笑いというか大爆笑したのだ。その上、店長は余りにも笑い過ぎて椅子から転げ落ちてひっくり返ってしまい、それでもまだ笑い続けていた。そしてそれに釣られて中山さんまでもが大笑いしてしまい、二人共に何と優に1、2分以上も笑い転げていたのだ。

だが私は、
【 いったい二人ともいつまで馬鹿笑いしてるのよ?もうずっと笑いが止まらないじゃない?小遣い300万円じゃ全然足りないって、全然可笑しい話じゃないし、それの何がそんなに可笑しいの?】
と呆れ果てたのだ。私にとっては中山さんから毎月の小遣いが300万円では全然足りないなどと聞いても、中山さんの余りの金遣いの荒さに只々驚き呆れる他無く、何故二人ともそんなに馬鹿みたく笑い転げる続けているのかがちっとも理解出来ず、訝しく思ったのだ。

しかしよくよく考えてみると、私もフードニューを眺め【次は何をオーダーしようかな。】などと考え、散々中山さんからご馳走になっておきながら中山さんに対して偉そうな事を言える立場では無いのだが、それにしても、学生が月に300万円以上もの小遣いを使い、更にそれでも足りないだなんていくら何でも使い過ぎではないかと思ったのだ。
それに店長に言われて初めて気が付いたのだが、確かに中山さんは何と3年間で1億円以上もの小遣いを使っている事になるのだ。いったい中山さんはどうやってそんなに使っているのだろうか?

私はそれで素朴な疑問として中山さんに『 何で毎月300万円以上も小遣いを使うんですか?』と、尋ねてみたのだ。
すると中山さんは、『 私は本当は医者など向いていないし、病人相手の医者なんて職業はやりたく無いんですよ。だって病人って暗いでしょう。僕は本当は、はっきり言って苦手なんですよね、そういうの。毎日病人の相手をしてたら僕の方が気が参って病人になってしまいますよ。でも実家が大病院を経営していて、僕は父親に『医者にはなりたく無い』と言って医学部に行く事をはっきりと断ったのですが、親から【どうしても医者になって病院を継いでくれ。】と言われてしまい、仕方が無く僕は親から言われた通りにこうして医学部に通っているんですよ。だから僕はその代わりに小遣いを使わせて貰ってるんですよ、まあ勝手にね。はっきり言って僕にとっては300万円なんかでは全然足りないので実際は勿論、もっと使っちゃってますけどね。』と言ったのだ。
私は『 まあ、そう言われてみれば確かに病人相手の仕事は大変そうですよね。でも何にそんなにお金を使っているんですか?』と更に突っ込んで尋ねると、中山さんは『 女の子がいるクラブや、フィリピンクラブなんかに行って、そこで友達になった女の子から【お金に困っている】なんて言われてその子に部屋を借りてあげたり、フィリピンの女の子が実家に仕送りをするお金を出してあげたり、その子達が【 親兄弟だけじゃ無くて親戚まで養っているので、そのお金を送らなければいけないから金を貸してくれ】と言われたりね。僕の周りには何人もそういう女の子がいるのでね。ただ僕がフィリピンクラブに行くのには理由が有って、せっかくニューヨークに留学したのに日本で英語を使わないで過ごして英語を忘れてしまわない様に、たまには英語を使わないといけないからという理由が主なんですけどね。フィリピンの女の子達は英語を話せるのでね。』と、一応そうしたちゃんとした理由が有るらしいのだが、それにしてもやはり私は【中山さんは、お人好しだと思われて女の子達に騙されてるのかな?】と思い、『 そうなんですね。でもやっぱりそれって中山さんは、女の子に騙されてるんじゃ無いんですか?』と言うと、中山さんは私の目を見つめながら私を諭すように、『 そうは言っても、友達から【 困っている 】と言われたら手を差し伸べ無い訳にはいかないでしょう? 少なくとも僕は、友達から困ってると言われて放って置く事は出来ませんし。でもね、それならそれで僕は騙されてたって全然構わないんですよ。それに女の子が僕の事を騙そうとするなんて可愛いじゃ無いですか? 僕はおかしいのかな?凄く可愛いと思っちゃうんですよ、そういうの。だからね、女の子にむしろ騙して欲しいくらいなんですよ、僕の事を。だって面白いじゃないですか。』と笑いながら言うのだ。
中山さんは続けて『 それに僕はお金を貸してと頼まれて貸す時は、そのお金はもうあげたつもりで返って来ないと思って貸してるから、騙されただなんて全く思わないですし。騙されたと思う様な人は、貸したお金が返って来ると思っているからですよ。それで騙されたなんて言ってる男は馬鹿ですよ。』と言ってまた笑った。
【えっ!何それ変わってるなあ?この人。いったい全体何をどうしたら自分の事を騙そうと考えている奴を可愛いなどと思えるのだろうか!? 私なら、私を騙そうとする男でも女でもぶっ飛ばしたいくらいなのだが。そんな風に考えられるなんて、ひょっとしてこの人聖人か何かか!?】と、思った。私はせっかく中山さんの事を心配して親切に教えてあげたのに、そんな返答が返って来るとは思ってもみなかったのだ。
当時15才の私には、そうした考えを持つ知り合いに出会ったのは初めてだったのでとても驚いたし、中山さんのそうした考え方は、私には全く理解が出来ないと思った。だが、騙されて負け惜しみや強がりで言っている訳では無さそうだし、だいいち当の本人の中山さんが【そんなお金など騙されてもいい、逆に出した金など戻ってくる訳が無い。】などと言っているのだ。それに考えてみれば大金持ちで、日本一金遣いの荒い大学生なのだし、私には理解が出来ないが、中山さん自身が【女の子に騙されたい】などと言っているのだから、 私からはもうそれ以上何も言い様が無いというものだ。
【 本当に中山さんはなんて変わってる大学生なんだろう。】と思ったが、中山さん本人から『 女の子に騙されても全然構わない、逆に面白いから騙されたい。』などと言われしまっては、それ以上干渉しても仕方が無いと思ったのだ。

中山さんは更に話を続けて、『 それに例えば友達と会っている時に、友達から『 ラーメンが食べたい。』なんて言われて、その友達としては【近くに食べに行くのかな?】と思っていたら、いきなり僕に空港に連れて行かれて、ラーメンを食べるという目的だけの為にそのまま飛行機に乗って北海道まで行ったりしたら、みんなきっと驚くでしょう? 僕はそんな風に友達を驚かしたりするサプライズが大好きなんですよ。でも友達を驚かせる為にサプライズするにもやっぱりお金が必要でしょう?』と、言って微笑んだ。そしてまた、『 だからお金なんてものは、要は生きたお金の使い方をすればいい訳ですよ。そうすれば僕はちっとも無駄だなんて思わないですし。』
私は、【 ふーん、なんか不思議な人。変わってるけど、まあ大金持ちなんだから別にいいんじゃない。悪い人では無さそうだし、それなら私もこんなにご馳走になっても気にしなくても大丈夫かな。こう言っては悪いかも知れないけど、この人、マジで使えるわ。】と、思ったのだ。そして帰り際に中山さんは、そのクラブの隣の有名な高級ケーキ店に立ち寄り、『ケーキ、好きですよね?』と私の方に振り向きいたずらっぽく微笑みながら私に尋ね、それから店員に『 ショーケースに有るケーキを全部頂戴 。』と言って何十個ものケーキを私にお土産に持たせてタクシーで送ってくれたのだ。私は有名店の高級ケーキを中山さんからそんなに沢山買って貰い、とても嬉しかったのだ。

私はそのクラブもクラブの料理もクラブの隣の有名店の高級ケーキも、とっても気に入り、また付き合っていた彼はあのパーティーの後、何故か【毎日学校での実験やテスト勉強や体育会の部活動で忙しくなってしまったから】という理由でちっとも会えなくなってしまっていたのだ。そんな事もあり、それからはしょっちゅう中山さんとそのクラブで会う様になったのである。余りにも頻繁にそのクラブに通っていたので、すっかりそのお洒落なクラブにも慣れてしまい、ある時などは、学校の帰りに途中で駅のトイレなどで着替えるのが面倒になり、本来は18才以下はクラブに入場出来無いのだが、学校の制服のままクラブに行き、店内のトイレで着替えた事が有り、その時はさすがに店長も中山さんも大笑いしていた。

そうしてある時、いつもの様にクラブでそこの店長や中山さんと遊んでいる時に、私が中山さんに『 何か、怖い話とかして下さいよ。』と、頼んだのだ。私は幽霊とかそういったオカルトが結構好きなのだ。
すると中山さんは突然真剣な顔で、『僕は、はっきり言って宇宙人とか幽霊とか神を全く信じて無いんですよ。現実主義なので自分で実際に体験したり見た事が無いものは絶対に信じ無い質でしてね。だけど冗談でも作り話でも無く、これは実際に僕が身を以て経験した話だからはっきり言わせてもらうけど、悪魔だけは本当に実在するんですよ。例えもし、幽霊や宇宙人が作り話で実際はいないとしても。信じられないかも知れないけど、悪魔だけは100%間違い無く本当に実在するんですよ。 』と、余りにも唐突に言い出したのである。
これには私と一緒に聞いていたこのクラブの店長も、『 えっ!?それは本当の話ですか?まさか私をからかっているんじゃないでしょうねえ?何か突然、悪魔だなんて聞いて驚いてしまいましたが。』とさすがに困惑し、驚いた様であった。私は悪魔の話などアメリカの映画でしか見た事も聞いた事も無かったし、最初は正直全く信じられなかったのだが、いつも冗談ばかり言っている中山さんが、今までに見た事も無い程、余りにも真剣な顔で【 悪魔は本当に実在する。 】などと言い出したので私も驚いた。ましてや、幽霊や神の存在は、逆に見た事が無いから絶対に信じ無いだなんて、普通の人とは全く逆ではないか。
幽霊も神も悪魔の存在も信じ無いと言う人はよくいるが、中山さんとは逆で、幽霊や神の存在は信じるけど悪魔の存在は信じ無いという人が日本人には多い、というよりも悪魔の存在を信じている人や映画以外で悪魔の話をしたりする人も、私はそれまで全く見た事も聞いた事も無い程、悪魔とは、日本では存在自体を信じる人もいなければ、興味も無い様な状態なのだ。私もそれまでは、神や幽霊は間違い無くいるだろうと思っていたのだが、悪魔はさすがに吸血鬼同様作り話であり、せいぜい悪霊を誇張しているだけだろう、と思っていたのだ。それに、幽霊はこの世に恨みや未練が有り怨念が有って怖いというイメージがあるが、悪魔はどうも怖いイメージが無い。何故なら悪魔が人から酷い目にあって恨むなどとは全く考えられないし、ただ嬉々として天真爛漫に悪事を楽しんでいる様にしか思えないからだ。実際に日本では、悪魔が怖いなどと言う人には一度も会った事が無いし、【 小悪魔 】という、辞書では、【 男性の心を翻弄する魅力的な女性 】を表す女の子への褒め言葉でくらいしか【 悪魔 】という言葉を聞く機会すら無いのでどうもピンと来ないのだ。
だが私も店長も驚くのはまだ早かった。

中山さんは更に話を続けた。『 いや、まさか。全然からかってなんかいませんよ。はっきり言いますけど、僕は幽霊も神もいないと思ってますし、そんなのは全く信じてませんけどね、悪魔だけは本当にいるんですよ。僕は実際に悪魔とずっと一緒に過ごしていたし、一時期は僕の親友にまでなってたのであってこれはもう全く、いるいないのレベルの話じゃ無く完全に実在するんですよ。』
私は、『 悪魔が親友?って、まさかそんな事が本当に有り得るんですか? どういう事なのかもっと詳しく教えて下さいよ。』と半ば疑いながらも尋ねると、中山さんは、『 本当は、人には絶対に話した事が無いんですけどね。』と言いながら語り出したのだ。それによると、中山さんは一年間ニューヨークに留学していたのだが、ニューヨークにまだ行ったばかりの時に、留学先の学校で非常に面倒見の良い世話好きな優しい男子学生と友人になったのだという。話によると、まだ留学したばかりでニューヨークの学校にも慣れて居らず、また勿論全て英語で授業を受けるので、ノートもなかなか上手く取れず、毎日小テストなども有る為困っていた折、感じの良い男子学生が、キチンと書かれたノートをキレイにコピーしてくれたり、テストで出るところを教えてくれたり、学校の事情を何でも教えてくれて中山さんに大変親切にしてくれたのだという。それで中山さんとしてもその友人がいると本当に助かるし、正直言って【 こいつマジで使えるし、利用出来る奴だなあ。】と思い、その男子学生と友人と仲良くなっていつも一緒にいたというのだ。
その時【こいつマジで使えるなあ】と私の目を見ながら話したので私は【ヤバっ!それってまるっきり私が中山さんに対して思っている事じゃない!私が中山さんの事をそう考えたってバレちゃったかな。】と、私の気持ちを見透かされたのではないかと焦った。
が、中山さんは特に何も言わずそのまま話を続けた。
そして中山さんがニューヨークの留学先の学校で仲良くなったその面倒見の良い親切な友人がある日、
『 面白い集会が有るから一緒に行こうよ。』
と誘ってくれたのだそうだ。
中山さんは、何の集会か分からないが、いつも沢山世話をしてくれてる友人が、せっかく何か一生懸命中山さんを誘ってくれてるので、行かないと悪いし面白そうなので付き合いで行ってみる事にしたのだという。
そこで、実際に行ってみると、それは こく魔術 【黒魔術?国魔術?】?の集会【 ミサ 】で、非常に奇妙な集会だったというのだ。で、その【 ミサ 】( その集会を【 ミサ 】と呼ぶらしい )ではどんな事が行なわれていたのかと言うと、聖書を逆から読んだり、逆さになった十字架のネックレスを首に付けたり、また鶏の血などを使う儀式様のグッズの逆さに吊られた鶏なども売られていたりしたのだという。中山さんは、【 何だか分からないけど、変わってて凄く面白い所だなあ。】と思い、とても気に入ったのだそうだ。
そう話しながら中山さんは、実際に私達の目の前で、そのミサで行っていた様に聖書を逆から暗唱し、披露してみせたのだ。
そして中山さんは、
『と、まあこんな感じでね、僕も結構覚えてるものでしょう。これは意外と難しいんですよ。何しろ英語で書かれた聖書を更に逆から読む訳ですから。ニューヨークのミサではこんな事ばかりやってましたからね。』
と言って笑ったのだ。
だが中山さんからこんな風に英語で、しかも逆から聖書を暗唱されたところで私には検証仕様も無いし、いったい何を語っているのかもさっぱり分からないのだが、なる程どうやらこの様子だとかなり本格的にやっていた事はこの暗唱からもまず間違い無いだろうし、中山さんの真剣さからしても紛れも無く本物だと確信したのだ。

そしてまた中山さんは話を続けた。
中山さんをそこへ連れて来てくれた友人は、中山さんがその【 ミサ 】を気に入ってくれたと思い大変喜び、それからも益々仲良くなり、学校の授業のノートや試験で出るところを教えて貰え、本当に助かり有り難かったのだという。

そうして半年くらい経ったある日いつもの様に【 ミサ 】に行くと突然、【 儀式をする。】と言われたというのだ。そして何が何やら分からないまま、円陣やら五芒星だかが床に描かれている中心に入れられて儀式が始まってしまったのだという。
すると突然中山さんの耳の中から声がしたのだというのだ。その声は、ごく普通の話し言葉の様にはっきりと聞こえたのだそうだ。そしてその声の主は、【 私は悪魔の皇太子の○○だ。】と名乗ったのだという。( 皇太子の名前は何度も聞いたのだが忘れてしまった。)中山さんは、それまで悪魔の存在を信じているから集会に通っていた訳では全く無く、友人との付き合いと、また皆気が合ういい人達ばかりで単純に集会が面白かったから行っていただけだったので、儀式をされたからといって、本当に中山さん自身に悪魔がつくなどとはまさか考えてもみなかったのだ。