#3完全犯罪【3】

#3完全犯罪【3】

松岡は独立した直後、大手メーカーで一押しにしてもらう程抜群に可愛いロリータアイドル風の子と、もう一人いい女の子をスカウトし、その女優もいきなりAVメーカーから数年契約をして貰ったので、それにより直ぐに生活が安定する事となり、ミラノ市の紋章である赤い十字架と緑の大蛇がさすがミラノの貴族ヴィスコンティ家と思わせる世界一カッコ良いクールなエンブレムの付いた、イタリアンレストランでいつも飲んでいた、まるで血の様な色をした色鮮やかで大好きなブラッドオレンジジュースそのままのイタリアならではの予てから欲しかった赤のアルファ・ロメオを買ったのだ。

そうして松岡の事務所が軌道に乗った途端、本当に沢山の人達が松岡の事務所に寄って来たのだった。
新宿区のけっこう広い事務所には、いつもフリーランスで何か雑用や仕事の話等を振る変わりにデスクを貸して事務所を使わせてくれといった人達や、雑誌や写真集等を何冊かタイアップさせて松岡の事務所のタレントの営業をさせてくれといった人達等が常に何人も集まって来る様になっていたのだ。
またそれ以前は松岡から出向いて営業していた出版社やVシネマのメーカーの人なども逆に向こうから事務所に来てくれる様になったりもしたのだ。
そうして松岡は、いかにもキチンとした会社に見せようと、事務所のロゴや大きく事務所の名前の入った数種類の封筒や、紙袋などのノベルティグッズまでやたらと作り出したのだ。
更にいつも松岡を凄い成功者の如くおだて持ち上げる、よく喋り口が達者で、まるで詐欺師の様な者達が腰巾着の様に常に松岡に付き纏い、徐々に松岡を傲慢にさせ、勘違いさせていったのだ。そうして驚く事には、松岡はいつの間にか自分一人の力で成功したのだと思い始めたのだ。
私はまたバーニングプロダクションに戻っていた梅津に相談をし始め、梅津からまた松岡と住んでいる家を出る様に言われ、家を出てからの事はきちんと自分が面倒を見るから『取り敢えず家を出るまでの細々した事は園田【三島無玄】に任せるから。』と言われてしまい、松岡の仕事も軌道に乗った事だし、にも拘らず相変わらず私の周囲は国家規模の包囲網に囲まれている事には変わりは無かったのだ。

私は以前から周囲に、
『松岡の仕事が軌道に乗るのを見届ける迄は松岡からは絶対に離れられない。』
といつも強く言っていたのだが、それが功を奏したのか、松岡は、独立してからあっという間に収入も億を超えたのだ。
それで当初から、周りが余りにも私達を離そうとするし一旦は離れなければどうにもならないから、取り敢えず松岡の仕事を軌道に乗せてお金を作ったところで一旦離れ、私が戻る時まで松岡が私の金を預かっておくという計画だったのでそろそろ、周囲の意見にも耳を傾けなければならないと思ったのだ。
何故なら、結局はその後も周囲からの【松岡と離れなければ私の相談には乗らない。】という状況は何一つ変わらなかったのだ。
この松岡の仕事の成功の波も、結局、私が松岡から離れなければあっという間に終わってしまうものでは無いかと思ったし、もし周囲の反対に全く聞かずに松岡と居続ければ、
【松岡の仕事をを成功させ無い限り、松岡とは絶対に離れない】
と周囲に言い続けて来たので、この国家規模の大掛かりな包囲網が続いている以上、以前述べた様に、雅子妃の婚約者同様、松岡が暗殺されかねないと思ったのだ。
笑ゥせぇるすまん』という藤子不二雄Ⓐ氏の漫画のアニメーションがあるが、それは謎のセールスマン喪黒 福造(もぐろ ふくぞう)が現代人の願望をかなえてやるが、約束を破ったり忠告を聞き入れなかった場合にその代償を負わせるという話なのだ。その謎のセールスマン喪黒 福造 が、「ココロのスキマ」を埋めるためのサービスを提供し、それに伴う「約束事」を厳守するように促すのだ。

喪黒福造は困っている人を見かけると、『ココロのスキマ、お埋めします』と書かれた名刺と共に自己紹介をし、無償でその人の悩みを解決し、願望を叶えてくれる。
しかし条件を破った場合契約者のもとに出向き、契約違反とし、ペナルティとして人差し指で指を差し「ドーン!」と叫び、破滅に追いやる。軽いものでは与えた解決策の剥奪、重い場合は破滅や死亡という悲惨な結末を迎えることもある。
という話なのだが、その『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造と契約をしたのと同様に、【松岡の仕事をを成功させ無い限り、松岡とは絶対に離れない】と私は周囲に言いまくり、松岡が成功する様に協力をさせた様なものなのだ。
とはいえ、勿論、この国家規模の大掛かりな嫌がらせの包囲網という邪魔さえ入らなければ、そんな方法を取らなくても普通に事務所を軌道に乗せる自信はあったのだが、こんな状況下では、それより他無かったのだ。

バーニングプロダクションの梅津や園田【三島無玄】とのその後の件は後にまた詳細を述べる。

バーニングプロダクションの梅津に言われた通り、私が松岡の家を出ようと決めた頃、松岡は、周囲の者達におだてられ持ち上げられ、驚く程、かなり傲慢な性格に変貌してしまっていたのだ。

そして二人の愛車アルファ・ロメオでさえ、いつの間にか私に何の相談も無く、大型のBMWに勝手に換えていたのだ。
その挙句、
『 全くアルファ・ロメオなんて最悪だったよ。需要が無いから売る時にメチャメチャ安くなっちゃったしさ。
はっきり言って大損したよ。
しかも赤いアルファ・ロメオなんかに乗ってたらみんなに軽く見られるて馬鹿にされるし、社長としての威厳も無くなるからBMWに変えたよ。』などと言ったのだ。

その挙句に私は松岡と住んでいた部屋を出る少し前に2回も殺されかけたのでだ。
まず一度目は松岡とけんかをした時に首を絞められ、その時に、私は急にフワリとして苦しく無くなり楽になったのと同時に、突然それまでの記憶から幼児の頃までの過去の記憶までの様々なヴィジョンが次々と走馬燈の様に脳裏に現れては消えていったのだ。
そして私は、突然明るくて水が溢れ出る沢山のピンクなどの色とりどりの浮かんだ花々に囲まれ、こんこんと溢れ出る泉の上にふんわりと漂っていたのだ。ゆったりと流れる水に身を任せ、まるでその中に溶けていきそうな感じでとても気分が良くなり、【 もう帰りたくない 】と、思ったのと同時に意識を取り戻したのだ。
もしかすると、私は死んでいたのかも知れないのだ。
なぜ私がそう思ったかというと、この走馬燈とお花畑という、よくある臨死体験者が言っている情景と同じ様な体験をしただけで無く、柔道経験者に、絞め技で気絶した時にお花畑や走馬燈の様なものを見た事があるかを何人かに尋ねたが、誰からも『そんなものを見た事が無い。』と言われたからなのだ。

そして松岡に首を締められ死の縁から舞い戻ったその数日後に、またしても松岡に殺されかけたのだ。

事情を説明すると、恥ずかしい話だが、私は元々アイロンをかけた事が全く無かったのだが、松岡は会社に勤めていた頃は、ワイシャツをクリーニングに出す事も有ったが、半数くらいは松岡本人がスプレーで糊付けをしてアイロンをかけていたのだ。

そして自分で会社を作ってからはほぼ全てのワイシャツをクリーニングに出していたのであったが、その事件が起こる前日、松岡は何故か着ていたワイシャツを洗濯機に放り込んだのだ。
私は
『あれ、何やってるの?クリーニングに持って行くのに濡れちゃったじゃない。』と言うと、松岡は、『ああ、間違えた。もういいよ。自分でアイロンかけるから。』
と言ったのだ。
その時私は、
『何でマンションの隣にクリーニング店があるのにワイシャツを洗濯機に入れるのよ。何かおかしいなあ?』
と、不審に思ったのだ。
私はその頃、不眠症気味だったので、近くのドラッグストアで販売員からのアドバイスで脳の興奮を抑えて眠り易くする市販の軽い精神安定剤を勧められ、その薬を飲んで寝ていたのだ。その薬を飲み一旦眠りにつくと、深い眠りに陥り、起きる時も少し頭が朦朧としていたのだ。

そして松岡がワイシャツを洗濯機に入れた翌日、私は、何かビニールか化学繊維が燃える様な、ケミカルな気持ち悪い臭いでむせりそうになり、目が覚めたのだ。
すると、何とアイロンがスイッチが付いたままカーペットに倒れていて、そこから煙が立ち上っていたのだ。
私はビックリして慌てて倒れているアイロンを立ててコンセントを抜き、ちょうどアイロンの型に真っ黒に焦げたカーペットの上に水をかけたのだ。
このカーペットが化繊なので焦げて物凄い臭気を放っていたのでたまたま運良く気付いたものの、その買ってきた市販の精神安定剤を飲んで寝ていたので、本来ならなかなか目を覚ます事が出来ず、もう少し気付くのが遅くそのまま寝ていたら、危うく焼け死んでいるところだったのだ。

仮にもしそうなっていたら、私がアイロンをかけてその後アイロンをうっかり倒したまま寝てしまった不注意か、若しくは自殺と取られるかのどちらかに、先ず間違いなくされていたであろう。
そうなると、もし松岡がわざとアイロンを付けっぱなしにして倒して出ていったのだとしたら、これは殺人の完全犯罪となり、私がそれにより死んだところで誰にも疑われるが無いだろう。

その時、慌てて私が直ぐに松岡に電話をすると、
『 ごめんごめん、急いでたから、うっかりしてた。本当だよ。』
などと言っていたのだが、どう考えてみても例えもし急いでいてうっかりしたとしても、火災にまでなるには最低でも2段階を踏まなければならないのだ。
まず第一段階は、アイロンをうっかり倒したが、アイロン本体についてる電源を消す、若しくはコンセントは抜いてあるといったケース。
もう一つは、アイロンは倒して無いが、アイロン本体についてる電源を付けっぱなしにする、若しくはコンセントが付けっぱなしであるといったケース。

仮にもし私なら、熱を保持したままのアイロンを倒したままにする訳も無く、アイロンは高温なので火災を起こし易く危険なので、アイロン本体の電源を切って、更に間違い無くコンセントも当然ながら抜く。
これら考えられる3工程をいきなり全てすっ飛ばして怠ったという事は、どう考えてもおかしいのではないか。
ましてやいつもは火の元の消し忘れや玄関のドアの鍵のかけ忘れに神経質であり、出かけてからまた家に戻る事もしょっちゅうだったのに、この日に限ってその3工程を怠るとは到底信じられない。

現に私はあと少し気付かずに目が覚めるのがもう少し遅ければ、間違いなく焼け死んでいたのだ。
【 これは、どう考えても完全犯罪だろうな。
しかしそれにしても完全犯罪って意外と簡単なんだなあ。
これならまず誰にも私が殺されただなんて思わないだろうし、誰からも殺人ではないかなどと疑われないだろうな。
まさか男がアイロン付けっぱなしでわざと倒して出掛けただなんて、通常はちょっと想像つかないものね。
アイロン掛けをするのなんてまず絶対女だと思われるだろう。
それに松岡は、私が市販の精神安定剤を服用して寝ている事を知っているのだし、完璧な完全犯罪では無いか。私が火災が起こる前に目を覚まして無ければね。】
と、思ったのだ。

だが、私はこのトラブルに巻き込まれ、この国家規模の大掛かりな嫌がらせの包囲網を敷かれた当初から、絶え間なく引き起こされるトラブルにより松岡とけんかになり、松岡がうっかり私を殺してしまったりするのではないかと懸念し、例えその様な事態が勃発しても、絶対に死んだりせずに必ず意識を取り戻す、或いは必ず未然に防ぐと決めていたのだ。
それはこの国家規模の大掛かりな嫌がらせの包囲網によって、松岡を殺人犯にさせる、或いは松岡が暗殺される訳にはいかないと思っていたからだ。嫌がらせの包囲網を敷かれている為に、絶え間なくやって来るトラブルにより、松岡が私をうっかり殺してしまう嵌めになれば、正に向こうの思う壺だ。
これは私がこの国家規模の大掛かりな嫌がらせの包囲網を敷かれている事に気付き、また公安がこの包囲網を主導していると、兄の様に慕っていた博報堂の坪内泰光氏と栗田朗氏から聞いた時からずっと危惧していた事だったのだ。

そんな事出来る訳が無いじゃないかと思われるかも知れないが理屈では無いのだ。
始めから、何故かそんな予感がした、或いは国家による嫌がらせの度合いが余りにも酷い故、いずれこの嫌がらせの行きつく先はこの、松岡を死に追いやる、若しくは、私を殺して松岡を殺人犯に仕立て上げるといったところだろうと思っていたのだ。だが、とにかく何が何でもその様な悲劇だけは何としても避けなければならなかった。
それがこの国家規模の大掛かりな嫌がらせの包囲網に松岡を巻き込んだ私の、最低限の義務だと思っていたのだ。

更に最悪の事態と私が危惧していた事は、この国家規模の嫌がらせの包囲網を敷いている者達により私が殺され、無実の罪で松岡が殺人犯に仕立て上げられてしまう事であったのだ。
勿論、松岡の私利私欲の為に殺される事は想定していなかったのではあるが。

考えるに、恐らくこの頃、しょっちゅう弁護士に相談し、会社の顧問弁護士までつけていた松岡は、共有財産の財産分与の事を当然詳しく聞いて熟知していたものと考えられる。私には私と離れる際もお金を渡したく無かったので、その脱税の手口を全て知っている私をどうしても消したかったのだろう。
でも松岡も元々はそんな人間では無かった、とは思う。この国家による大掛かりな嫌がらせの包囲網を敷かれおかしくなってしまったのか、若しくは周囲の者達からおだてられ傲慢になってしまったのか、或いは急に宝くじが当たった様な大金が入っておかしくなってしまったのか。
この後、松岡は更なる手段に出るのだが、それはまた後で詳細を述べる。