超ウルトラスーパーAVアイドルプロダクション AV業界の頂点に立った男の真実の物語 4

またそれだけではなく、以前付き合っていた尊敬している売れっ子カメラマンから、 ≪ 君がいつも業界人御用達のおしゃれな店で、店の人にちやほやされているのは、それなりの業界人と一緒に居るからただ単にその人達に対して気を使っていて、その人達に連れられて来ているからこそ君を大事にしてくれているだけであって、君自身に対して持て囃してくれてる訳じゃないのに、何か勘違いしてるんじゃない? 僕だったらそんなんで良くして貰ったってちっとも嬉しくないし、かえって気を使ってしまって、楽しめないし疲れちゃうよ。よく分らないんだけど、君はそれでも楽しめるの?それからそういう時に君にお世辞を言ったり気を使っている店の人の気持ちとかって、考えた事あった?そういう店で遊ぶのは、芸能界でもっとそれなりの仕事をしてからにすれば、業界人と一緒に来るからではなく、本当に君自身が来てくれたからこそ良くしてくれるようになるのに。その方がカッコいいと思わない?僕だったらその方がずっと楽しいと思うし、そうでなければそんな店に行く意味がないね。もっとも僕はそもそもそういう業界人と店が馴れ合っている店は、仕事や人との付き合いでしょうがなく行ってるだけで、好きではないけどね。第一、タレントの女の子が夜遊びばかりしてると評判が悪くなるよ。まあ、もう少し夜遊びは我慢しなさい。だいたい業界の奴らなんて集まれば、やれタレントの●●が、最近毎晩六本木で沢山の男を侍らして派手に騒いでいる様だとか、そんな下らない噂話ばかりしてるんだからね。それであの子はもうだめだねとか言っているけど、本当は自分だってタレントの●●と遊びたいくせにね。≫ そう話しながら私の方をちらっと見ていたずらっぽく笑い、私は一瞬ドキッとする。
と、いった感じで、とにかくいつもこんな風によく説教されていたのだ。
それに対して私はいつも、 “ 確かにその通りかも知れないけど、それは自分が売れっ子だから言える事でしょ。売れてないこっちの身にもなってみてよ。そういう場にいれば仕事の為の、何らかのチャンスや良い出会いがあるかも知れないのに、有名になるまで引き篭もってたらそうしたチャンスも逃してしまうじゃない。人にどう思われていようと構わない。”  などと思い反発をしていたのだが、常日頃そう言われていたので、内心ではかなり引っ掛かっていたし、“ 仲良くしてくれてると思っていたそうした業界人の集まる店の人達も、それなりの業界人と遊びに来てるから気を使ってくれてたんだなあ、内心では私の事どう思っているのだろう。業界人の集まる店で遊んでいると悪い噂が立つという事も、確かにあるんだろうし。” 
この人は、売れっ子カメラマンであると言うだけでなく、頭の回転が非常に速く、早口でズバズバと思っている事をストレートに話す。でも、それが何だかとても不機嫌そうに思え、私は '' ご機嫌が悪いのかな?どうしよう!怒らせてしまったのかしら?" と、心配で不安になってしまう。だが彼に、≪ 何か怒ってますか?≫ と、おそるおそる尋ねてみると、≪ 別に怒ってないし、僕はこれが普通なの。≫ という答えが返ってきて、少しほっとする。私は彼に、≪ だから敬語使うのは辞めて 。≫ と、いつも言われるのだが、" そんなのって絶対に無理無理 " と、思ってしまう。タメ口などを無理に使えば、どう頑張ったってどうしてもギクシャクとした口調になってしまい、何かちぐはぐな感じでちゃんとした言葉にならないし、かえって疲れてしまう。敬語を辞めてタメ口を使うには、私にとって彼は、あまりにも威厳がありすぎるのである。
彼はまた、おしゃれで美意識が非常に高く、まあこれは、職業柄そうでなければ商売が成り立たないのであろうが。とにかく言動や行動など全てがクールでカッコよく、様になり、話にも凄く説得力がある。《 ミスタークール 》と、お呼びしたい程だ。彼と一緒に居る時は、まるで口から心臓が飛び出しそうな位に緊張し、一秒たりとも気を抜けない。ちょっとでも油断し、気を抜こうものならまるで針を刺される様な鋭い指摘を受け、私の心はグサグサになってしまうであろうと思え、軽く怯えてしまうほど常に緊張感を最高度に固定にさせられ、小刻みに震えているのか、ドキドキして心臓が波打っているのか、自分でも良く分からなくなる。だがその緊張感が何故かすごく心地良く、自分でも不思議で仕方がなかった。 まるでエデンの園でイブが食べた禁断の果実の様に甘くとろけて全身が痺れてしまったかの様だ。だが、このとろける様な、体中が甘く痺れてしまう様な極上の禁断の果実の味を一旦知ってしまうと、他の全てが紛い物にしか思えなくなり、もう元の知らなかった頃には決して戻る事は出来ないのである。

この様な人物に会ったのは生まれて初めてだった。だが、可笑しな事に彼はいつも、 ≪君と居るとすごく落ち着くし、リラックス出来るんだ。だからこそ、仕事が忙し過ぎて目が廻りそうなくらいなのにこうして時間をとって、君との時間を大事にしてるんだよ。そうしてリフレッシュしないと、僕だってテンパってしまいそうだよ。≫ などと、私が抱く感情とはまるで真逆の事をいつも言うのであった。それで私が ≪ ええっ?そんなの絶対に嘘ですよ。≫ と、そう言って疑りながら彼の方を見ると、 ≪ あのさあ、君、僕がどれだけ無駄な時間が嫌なのか知ってるの?はっきり言ってこのクソ忙しい中で、どうでもいい奴と会ってこの僕の貴重な時間を潰すなんて事在る訳がないでしょうが、こんな好き嫌いの激しい人間なのに。そういう事ちゃんと分かってるの? 僕はこれでもいつも僕なりに君が、“ちゃんといい子にしてるかなぁ ”って本当に心配してるんだよ。だって君、危なっかしいからさぁ。もう、これ以上そんな詰まらない事言ってると、いくら何でもほんとに怒るよ。≫ そして私はいつも、≪ はいはい、売れっ子さんは大変ですね。それはそれはお忙しい中、こんな大先生に貴重なお時間を作って下さってどうも有り難うございますね、って、もっともっと時間を作って欲しいのにい。≫ などと言いながらも、心の中では、 “ 私に会うと落ち着くだなんて、ねえ、どうして? どうしてそんな事言うの? 私の気持ちを知っててからかってるんでしょう? それってブラックジョークか何かなの? いったいこの人、本気で言っているのであろうか。 私など、あまりに緊張し過ぎて気を使い過ぎてしまい、胃がキリキリと痛くなりそうな程だというのに。” そのまるっきりかけ離れたというか、正反対のギャップが不思議で仕方なく、また可笑しくて仕方が無かった。
彼に会う時は、彼がロケ帰りの時は撮影用の機材を積む為の大き目のボルボのバンで、事務所兼アトリエから来る時は二人乗りのスポーツカーで、大抵はどこか都心の駅のロータリーに乗りつけ、私をピックアップする。彼の車が見えたとたん、私は急に嬉しさのボルテージが一気にMAXまで込み上げて来て、溢れ出る笑みを抑えきれず、思わず口元を手で覆う。心臓の音を高鳴らせながら小走りで急いで車に駆け寄ると、彼の横顔が見えたと同時に車のドアが開き、そして素早く車に乗り込む。するといつも、開口一番に ≪ どう、ちゃんといい子にしてた?≫ と言って私の頭を優しく撫でてくれるのだ。私は彼に頭を撫でられたとたん、まるで魔法の呪文でも唱えかけられたかの様に、自分がこの人に飼われているペットの子猫で飼い主に会えた時の様に、不思議と彼に甘えたい気持ちで一杯になり、そしてまた彼に会えた嬉しさで、完全に舞い上がってしまうのだった。運転してる時の横顔だって、何てクールでカッコいいのだろう。思わずこっそりと横顔をチラ見してしまうと、すぐに気付かれて、≪ どうしたの?何か顔に付いてる?≫ などと、言われてしまう。私はドキッとして≪ううん、何でもない。≫ と言いつつ、“ やっぱりバレてた、鋭いなあ。全てお見通しって訳ね ”と、またまた感心してしまうのだ。

だがこの人は初めて私を、私自身を認めてくれた本物の超一流の業界人であり、いつもタレントやグラビアアイドルを撮っている今を時めく売れっ子カメラマンであり、それだけの一際優れた技量を持ち、感性の研ぎ澄まされたアーティストなのだ。
感性が研ぎ澄まされた、と簡単に言ってはみたものの、私にとってその感性というものは、そもそも得体の知れない未知の物であり、はっきりと目には見えない、その得体の知れない未知の感覚や技巧を極限にまで極め、それを武器に業界でトップレベルに上り詰めるだなんて摩訶不思議であり、超能力を操る奇っ怪な魔術師の様に思えるのだった。


そういえば彼に誘われて、彼や出版社の専務と一緒にクルーザーと温泉に、伊豆へ泊りがけで旅行に連れて行ってもらった事があった。その時に、その専務が私に、 ≪ 彼は今すごく売れているし、まさに今を時めく売れっ子カメラマンですからねえ。そうだなあ、日本では勿論上から10本の指、いやいや6,7番目には間違いなく入ってるね。何より僕は彼の感性が好きなんですよ。≫ と言っていたっけ。出版社の専務から、大好きでこの世で一番尊敬する彼の事をそう褒められると、≪ 有難うございます。≫と、思わず手を取って礼を言ってしまいたくなるほど嬉しくなり、まるで自分事の様に誇らしく思い、その専務にもすごく好感が持てた。そして私は心の中で、“ でもそのメンバーの中で、絶対に彼が一番カッコいいに決まってるわよね。” と、内心呟いた。
私にとって彼は初めて会った、まるでスーパーマンの様に、全てにおいて完璧で隙が無く、素直に心から最高にリスペクト出来る憧れの男性であり、私が今まで生きてきた中で真に尊敬が出来る人物であり、パーフェクトな男性像は、後にも先にも彼ただ一人なのである。一緒に居る時でさえ、永遠に手の届くことの無い理想の人物に思え、幻の様にも、溶けて無くなりそうなアイスクリームの様にも思えたのだった。私はいつも彼に会った瞬間から、まるでシンデレラの様に時計の針がカチリと頭の中にセットされ、カウントダウンが始まるのを感じていた。そしてその針がいつも帰るまでの間、ずっと頭の片隅で、寂しくせつなく鳴り響いていた。私にとっても彼と会っている時間は、とてつもなく貴重な黄金の時間、いや、黄金なんてものじゃなくむしろ、燦然と煌き、キラキラと瞬く“ ダイヤモンドの時間 ”と言った方が、私の気持ちにはピッタリと当て嵌まる。私も彼と会って、こんな凄い人に私は大切にされているのだ、と思いまたそれを確認する事で、まるで魔法の様に不思議と自信が湧いて来るのだった。

だが、そんな私が最高にリスペクトしている大好きな彼に、私の夜遊びについて、ストレートに正論を言われ、反発心旺盛な私でさえも、その指摘は概ね間違いないだろうと思い出し、いつのまにかそうした店に遊びに行く事もすっかり虚しくなってしまっていたのだった。
彼に、≪ 僕とこうして会っているだけじゃ満足出来ないの? ≫ と言われ、私が ≪ そんな訳無いじゃないですか。≫ と言うと、 ≪ だったら今はもっとやるべき事がいっぱい在るでしょ。もっと自分磨きをしないと。ファッションだってリセスタイルとかもっと勉強したり、エクササイズでボディ作りをしたり、色んな写真集を見て、ポーズや自分だったらどんな風に撮られたいかだとか、どんな写真のスタイルが好きかとか、ちゃんと研究してる? ほら、この間も僕が好きな外国のカメラマンが出してる写真集をあげたでしょう。ああ云うのちゃんと見てるの?絵画展や写真展に出かけたりして見る目を養うとかさ。そんな事もやらないでただ夜遊んでたってしょうがないでしょう?やるべき事をちゃんとやりなさいよ。全くこの不良娘は。あまり僕に心配かけさせないでよ。お願いだから、ね。もう、ほんと頼むよ。≫ と、ゆっくりと髪を撫で、その端正な顔で私の目を優しく見つめながらそう言うのだ。こんなに厳しくてクールな人が、何と言う、優しい眼差しを私に向けてそんな事を言うのだろうか。 “ 心配ですって。親でも学校の教師でもないのに。ましてや私が雲の上の存在の様に思っている憧れの人が、私の事をそんなに心配してくれるだなんて、不思議で仕方が無い。まるで夢でも見ている様だ。そんな方に目の前で、そこまで言われてしまうと、さすがの不良娘でも逆うことが出来ないではないか。それどころか何か申し訳ない様な気持ちになってしまう。 そこで、≪ ごめんなさい。こんな有名人でお忙しい方にご心配かけてしまったなんて。≫ と言うと、≪ よく言うよ、僕の事こんなに振り回しといてさ。≫ と急に視線を逸らして前に向き直り、ちょっとぶっきら棒にそう言った。

とは言われたものの、写真なんかいくら眺めたところで、何も分かる訳が無いと思っていたのであるが、その彼のアドバイスのお蔭で、私は不思議といつの間にか、どんなポーズがいいだとか、自分がどんな写真が好きなのかなどの写真の見方が段々と分ってきたのだ。少なくとも感性が磨かれて来た事は、間違いが無い様だ。ちなみに私は自分に自信が無いせいもあるが、リアリティを追求している様な写真は好きではない。私は彼に頂いた様な外国の写真集も、勿論カッコいいし素敵ではあるのだがやはり、レフや照明で飛ばし気味で、幻想的な南国の色とりどりの美しく鮮やかな花々や濃い緑の原生林に囲まれ、その中でシダの濃く深い緑の葉やショッキングカラーの花々に、ボディがより美しく華やかに飾り立てられ、そのシダの葉の鮮やかな濃い緑色と南国に咲き乱れた色とりどりの花々の派手なパッションカラーの鮮やかで美しいコントラストが、目に飛び込んで来る様であり、まるで南の島の妖精の様に、可愛らしくファンタジーっぽく撮っている、そんな彼の撮った写真が、フィルムの様に私の目にはっきりと焼き付いているのであるが、そんな写真の方が、ずっとずっと好きだと思えたし、溜め息が漏れるほど、とても美しく素敵に思えたのだ。私はいったい幾度、その写真を眺めた事であろうか。

そうそう、彼には、私の服のセンスまで変えさせられていたのだ。彼は勿論その道のプロだからというだけでなく、新宿で生まれ育った根っからの都会人であり、元来服のセンスが良かった。その彼に、≪ どうしたの?そんなにアクセサリーを沢山着けて。ジャラジャラとうるさいし、もう、全くあんたチンドン屋じゃないんだから、いい加減にしなさいよ。≫ となどと言われ、私は “ えっ、チンドン屋ですって?学校の友達なんか、いつもこの倍はアクセサリー着けてるし、これ位着けてても 《 何かアクセサリー少なくて寂しくない?》って言われる位なのに ” と、思っていると矢継ぎ早に、 ≪ それにそんなお水みたいなケバケバしい服は止めて、パリジェンヌというか、リセ・スタイル 〔フランスの十代の女の子〕 みたいなフレンチカジュアルを着なさいよ。アニエスベーとかそういうシンプルな服装とかパリの学生の女の子みたいなリセ・スタイルがいいよ。可愛くて素敵な女の子はシンプルな服を着るほど、その可愛さや素敵さが余計に引き立つんだよ。タレントだってスーパーモデルだって、オーディションや撮影の時には皆そういうシンプルな服をカッコよく着こなして来るんだよ。あまり派手な服を着ると服に着られているというか、服ばかりが目立ってしまって、着てる人の本来の良さが、見えなくなってしまうんだよ。この業界の人間達は、皆そういう派手な服を着てるだけで、お水みたいでタレントやモデルっぽくない、プロ意識が無いと決め付けてしまって、その人の良さを見ようとさえしないからね。いいかい、だからいいから僕の言った通りに、リセスタイルみたいな感じに変えてごらん。そうしたらそれだけで、ずっとタレントやモデルっぽくなって、あっ、この子キラッと光ってるなって思われるから。○○とかの雑誌を見てごらん、きっと君にピッタリ合うような服が載ってるから。
それに、はっきり言ってさあ、その格好で君と一緒にいるところを、もし僕の事を知ってる人に見られてたら、僕がお水の人と一緒に居ただとか噂されそうだよ。これでも一応僕も名前が知られているんだしさ。≫ などと言うのだ。私は、しかたなく ≪ はいはい、分りましたよ。有名人に恥をかかせる訳にはいきませんものねえ。≫ とは言ったものの、確かに派手な水商売っぽい服と言われてみればその通りではあるのだが、それまでの自分の派手な服装を気に入っていたし、私は、彼の言う、リセスタイルというのがいったいどんなものかよく分からなかったのだが、いくらパリであっても、学生らしい服なんてのを着てるのを学校の友達や夜、いつも遊んでいる友人達が見たら、皆、≪ どうしたの?そんないい子ぶった格好しちゃって。マジウケる≫ などと言って笑われそうであるし、私の周りは皆、派手で大人びた水商売っぽい服を好み、学生らしい格好なんてのは大嫌いなのだ。それを彼に伝えると、≪ 君はこの世界のプロなんじゃないの?素人みたいな事言わないで、もっとプロとして自覚しなさいよ。いいかげん、僕の云う事聞いてよ。君の為を思って言ってるんだからさ。もうほんと怒るというよりも呆れてるよ。≫ と、まで言われてしまい、これにはさすがに、私はまるで心臓にグサリとナイフで刺されたかの様な気持ちになった。これは明らかに何時までたっても服装を直さない私に、最後通牒を突き付けたのだろう。

彼も勿論、私の為を思って一生懸命言ってくれているのであるし、今回の怒り様ではさすがに、本当にもう彼に見放されてしまうと強い危機感を持った私は、彼の言う通りに服装を変える事を決意したのだ。
だがアニエスベーのあまりにシンプルな服装は、ショップに何度も足を運んではみたものの、それまで派手な服ばかり着ていた私がカッコよく着こなすには、さすがにハードルが高すぎてどうしても無理だと断念した。これはかなり上手く着こなさないと、パリどころか近所のスーパーの安売りで買った物を着てるのではないかと思われてしまいそうだ。もし私が着れば、いや実際、少なくともアニエスベーなど何も知らない近所のおばさん達や、私の友人達などには間違いなくそう見えてしまい、急にそんなスーパーで買ったジャージみたいの着て、とうとう気でも狂ったかと思われるだろう。さらに、これをカッコよく着こなす彼の周りの人達とのあまりのギャップに呆れられ、彼から一瞬で嫌われそうである。
このままでは見放されてしまう、と泣き出しそうな気持ちになったのだが、リセスタイルなら、アニエスベーと同じパリでも、ティーンエイジャーが着る様なフレンチ・ガーリーな服装だと彼が言っていたし、同じパリというのが不安ではあるが、そちらならまだ一筋の希望があるかも知れない。それでもどうしても似合わずに、≪ 何これ、やっぱ変だね。がっかりだよ。≫ などと言われ、彼に幻滅されてしまったらどうしよう。何よりリセスタイルの服装を着てみてそれが似合わなかったら、もう間違いなく彼に嫌われてしまうに違いないのだ。私は、不安で一杯になり、かなり暗く落ち込んだ気持ちで、彼から言われていたリセファッションのショップに足を運び、幾つか手に取り、試着をしてみたのだ。
そして鏡に映った自分の姿を見て、あっ、と思わず声に出してしまった程驚いた。まるで別人の、タレントの様な人が鏡の中に突如として出現したとさえ思った。
こういった服は、ショップでディスプレイされたり、ハンガーにかかっている時にはつまらない服に見えたものが、実際に着てみると、不思議とずっとずっと可愛いらしく見えるのだ。まさに、実際に着てみると大化けするといっても過言では無い位である。これは本当に、着てみなければ全く分からなかった新たな発見であり、そのギャップこそがまた魅力なのだ。そしてそこがまた、マジックのトリックを明かされた様で面白く、私はすっかり、リセスタイルのトリコになってしまいそうだった。何これ、びっくり。何て可愛らしいく見えるのだろうか、本当に私じゃないみたい ! これが本当に、私なの?嘘みたい ! まるで魔法にでもかけられたてしまった様だ。
自分で云うのも何だが、この服を着ると、エスプリがきいているというのだろうか、可愛らしい中にもそこはなとなく品があり、ソフィスティケートされているというか、都会的に洗練されている様に見える。なんだかパリっ子にでもなったみたい。すっかり垢抜けた感じで、見違えてしまった様だ。
彼はきっと、アニエスベーの様なシンプルな服はさすがに私には難しいかも知れないと考えて、私にでも難しくなく着こなせる様なファッションが何か無いかと考えて、リセスタイルを選んでくれていたのだ。そう思うと凄く嬉しかったし、無理矢理にでも私の服装を変えようとした事に感謝した。それなのに、私はさんざん嫌がった挙句、しかたなくリセスタイルのショップに行き、ただただ、彼に幻滅されない程度に着られる事が出来ればそれでいいとしか、考えていなかったのだ。私は自分に似合うものは自分が一番分かっていると思っていたし、ましてや彼は男性なのだから、女の子の服の事なんて分かるわけがない、と思っていたのである。それなのにそれどころか、女性の私でさえリセスタイルなんてよく分からなかったのに、女性のファッションをも知り尽くしていて、その上で、その女の子にどんな服が似合うのかを見抜く眼を持ち、さらに私自身よりも私の事を判っているというか、見抜かれているという不思議。凄い、彼ってやっぱり本当に凄過ぎる。さすがは超一流の売れっ子カメラマンである。そしてこれが超一流の腕の見せ所なのだ。本当にもう、さすがとしか言いようが無い。私は彼を益々リスペクトしたのだ。
“ ふふふっ、これを見たらいったいどんな顔をするかしら?” 私は早く彼に会って、その服を着た姿を見せたくて仕方が無かった。
そしてその服を着て彼に会うと、 彼はちょっと驚いた表情で ≪ あっ、ちゃんと僕の言う事聞いて、変えたんだ。いいね。やっぱり君にはそういう格好が似合うと思ってたよ。≫ と言って、私を見て微笑んでくれたのだ。 “ 彼が、彼が私に微笑んでくれた・・・ ” 私が最高にリスペクトする、大好きな、大好きな彼が微笑んでくれた、何よりもそれが、それだけがもう、ただただ嬉しくて、そしてまた、こんな凄い人とこうして一緒に居られる事が、何だか奇跡の様に思え、夢みたいで、天にも昇りそうな程、嬉しくて仕方が無かった。
そして私は、それまで派手派手しい服を気に入って着ていた事がまるで嘘のように思え、それまでこんな服を着て喜んでいたなんて、馬鹿みたい。我ながら本当に信じられないなあ 。こんな服大っ嫌い。”とさえ思い、もう見るのも嫌になり、全部捨ててしまいたい程になったのだ。

またオーディションの心構えという程の事では無いかも知れないが、そうした時には周りのライバル達をかぼちゃか何かだと思って、周りのライバル達を絶対に見るな。周りを見てると皆が自分よりも良く見えて来て、自分に自信を無くしてしまうからね。そして常にこの中で自分が一番イイ女なのだと頭の中で繰り返し唱えてればいいんだよ。と教えてくれたのも、彼だったのだ。
深夜番組のセクシーアイドルのオーディションでは5、600人の人が受け、最終審査は公開オーディションだったのだが、この彼からのアドバイスを思い出し、ライバル達を一切見ない様にして、私がこの中で一番なんだと心の中で唱え続けた。するとそれまで心臓が破裂しそうなくらい緊張し強張っていたのだが、不思議と緊張感も少し解れ、いつのまにかどんどんライバル達も減っており、気が付くとオーディションを乗り切り、何と人気投票で2位になっていたのだ。
ちなみに1位になった子は、その番組の別の曜日にすでにレギュラー出演している子であった。そしてそれが、ここからライバルであり仲良しの友達となるA子であり、これがA子との最初の出会いであったのだ。